吹上遺跡

★★★ 吹上遺跡 ★★★

** 遺跡の位置

吹上遺跡は,日田市大字渡里字吹上原に所在する。

遺跡は,三隈川の支流である花月川と二串川に挟まれた,標高約140mの阿蘇溶岩台地 上に位置している。周辺には,小迫(おさこ),山田,草場などの各台地が隣接しており ,この吹上原台地は,旧二串川の侵蝕により上観がL字上の独立台地となっている。 周囲の崖面は,比高差約50mを測る。

吹上遺跡一帯は,古くより畑地として利用されてきており,現在でも多数の土器片や,石 器が散布している。中でも石包丁をはじめとする磨製石器の出土量は膨大な数にのぼって おり,大分県を代表する磨製石器の宝庫である。

また昭和54.55年度に実施した発掘調査では,弥生時代前期後半から後期にいたる多 数の土器や石器の出土と住居跡,貯蔵穴,土壙,箱式石棺,甕棺,石蓋土壙墓などの遺構 が確認されている。(ボ−ド54の2つ前の吹上遺跡参照)検出された遺構は,遺跡全面 に及び,特に遺跡中央部に集中している。

吹上遺跡の西側には甕棺が出土した向原遺跡があり,すぐ北側に隣接する草場第2遺跡で は,方形周溝墓,甕棺墓,石蓋土壙墓などの墓地群が確認されている。さらに,TLV鏡 が出土した草場第1遺跡,甕棺が出土した宮の原遺跡や,小迫遺跡,山田原遺跡などが近 接し,日田市内の弥生時代の主要な遺跡が密集している。

吹上原台地の南側崖面には,北友田.吹上横穴墓群が存在しており,吹上遺跡周辺には横 穴墓群が台地崖面に連なるように分布している。

*** 調査概要 ***

調査は農道整備予定区内に5本のトレンチを設定し,西側より1−5トリンチとした。

** 1トレンチ

一部掘り下げの結果,地山までは1m以上あり,工事による影響がないため途中で調査対 象外とした。その結果,4本のトレンチから,住居跡1基,貯蔵穴6基,土壙4基,柱穴 (ピット)数ケ所の遺構を検出した。

** 2トレンチ

1号貯蔵穴は,平面形が径1m程の円形をなし,床面に柱穴を有するが,上部は削平され 約30cmを残す蚤である。遺物は,床面付近にわずかに残っていた。

1は,如意上靴縁をなし,胴部上半に1条の沈線を有する甕である。

2号貯蔵穴は平面形が円形をなすと考えられ,埋土中に炭化物を含む。床面には柱穴が見 当たらず,土器は床面より10cm程高い部分に集中している。

2は,ほぼ直律する胴部から屈曲し,外反する如意状口縁をなしている甕で,口唇部下端 に刻目を施している。

3は,壷形土器の円盤貼付状の底部である。

1号土壙は,径60cmの円形をなしており,遺物の出土は余り認められない。

2号土壙は,径80cmの円形をなし,1号土壙により一部切られている。

4は甕の底部で厚い上げ底の裾が開き角ばっている。

3号土壙はやや不定形の円形をなしている。

5は平底をなす甕の底部である。

1.2号貯蔵穴は前期後半期,2.3号土壙は前期末から中期初頭と考えられる。

** 3トレンチ **

1号住居跡は,畑地開墾の際に上部が削平を受けており,検出面から床面までは浅い所で 5cm,深い所では10cm程である。中央に炉祉があり,その炉祉に向かって床面が若 干傾斜している。

1.2とも,胴部から口縁部にかけては「く」の字状を呈し,外面はナデとハケ目調整, 内面はナデ調整が行われている甕である。

3は壷形土器で,胴部が丸みをもち,底部は平底で,内外面ともハケ目調整が行われてい る。

4は,平底をなす甕の底部である。

3号貯蔵穴は平面形が径2m程の円形をなしており,床面には柱穴を有する。上部は削平 されており土器が若干出土している。

5号土壙は,不定形な長方形を呈しており,遺物の出土は余り認められない。1号住居跡 内にあり,前後関係については不明である。

1号住居跡は,中期後半と考えられる。

*** 4トレンチ ***

2mx5mのトレンチを3トレンチの北側に設定したが,ピット群を検出したのみで,遺 物の出土も余り認められなかった。

*** 5トレンチ ***

4号貯蔵穴は,平面形が径約2mの円形をなし,断面は袋状を呈している。検出面から床 面までは約2mあり,ほぼ中央に柱穴を有し,幾層にも重なった埋土中には炭化物が含ま れており,土器や,石器の出土量も多い。

1の甕は如意状口縁をなし,口唇部下端に刻目を施している。胴部上半に1条の沈線をも つ。

2の甕は如意状口縁をなし,胴部上半に1条の沈線を施している。

3は平底の甕の底部

4は上げ底の甕の底部 5の石戈は,欠損が著しいが,右側辺部下にえぐりをもつ。輝石安山岩製。

6は柱状片刃石尾ので上面には敲打痕を残しており,2ケ所の快入部を持つ。頁岩製。

5.6号貯蔵穴は,上部が約1mほど撹乱を受けており,断面観察によると,袋状をなす 貯蔵穴(5号)と台形状をなすと思われる貯蔵穴(6号)が切りあっている。5.6号貯 蔵穴とも,時間的制約により完掘する事はできなかった。

7はやや,丸みを帯びたどう部上半に刻目凸帯を有し,如意状口縁の口唇部に刻目を施し ている。

8はほぼ直立したドア部が屈曲し直角に近い口縁をなし,口縁部下に1条の沈線を施して いる甕である。

9は坪の頚部から肩部にかけて2本の三角凸帯をもち,肩部には羽状文,重孤文の文様を 施している。

10は甕形のミニチュア土器で,口縁部が直立している。

11は甕の上げ底の底部

12は甕の平底の底部である。

5号貯蔵穴は,前期後半から中期中頃までのかなりの年月が考えられる。

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