** [淡窓 先生]シリーズNO.19[付録 7]



いろは歌:かん宜園塾生に示す.



い:いつまでも下座に居ると思うなよ席予の訳をとくと知るべし

  いつまでも下座にいるは恥ぞかし席予に入らば昇進をせよ

ろ:六級も七八級も経上がりて九級に至る人ぞ勇々しき

  六級もまた七級も経上がりて首尾よく帰る人ぞ勇々しき



は:初より人の上には立ち難し浮世の様は皆かくと知れ

に:入塾の間もなく帰郷する者は仲も縁なき衆生なり

  入塾の間もなく帰郷する者は下等に果つる者と知るべし

ほ:法則を守らぬ癖のあるならば出示なき内引き取るがよし

  仏にも神にもたとひ祈るとも助け難きは誠なき人



へ:偏物といわるる事を好むなよこれぞかたわの唐名なりけり

  へり下りわが身の程をよく知れば上に登れど人は妬まず

と:友多き友の中にも友ぞなき浮きも沈みもみな友による

  ち:塵ほこり打ちはらうのも身の掃除公使の為と思うべからず

  父母は愛に溺れる者ぞかし己が心で出精をせよ



り:流儀こそ三つ五つに分かるとも遊で上がる学問ぞなき

ぬ:抜けて来る者は必ず呼びに来る帰る程なら来ぬ方がまし

  抜けくぐり役をのがるる者どもは人に用ある事はなきにせ

る:類もなき才子と人に言われても老いたる人の知恵を借るべし



を:後れじと励む心も我が宿に帰ればいつか忘れぬるかな

わ:我が事の外は少しもせぬものは学問しても使い様なし

  わが身のみ勝手の筋を言い募る者は評議に加えぬがよし

か:垣一つ隔てていても外塾は千里も違う学問の道

  唐大和あまたの文は見たりとも浮世の事は人に問うべし



よ:四つ五つ師匠の数は積もるとも遊んでで上がる学流ぞなき

  夜外に出づるは好む事でなし成るべき程は明日にせよ

た:たまたまの禮謁の間に合わざるは御目見以下の弟子というべし

  耕して刈らぬは何の益もなし中で止まるは口惜しきかな

れ:連判を好むものこそ悪人ぞ追い出す外致し方なし

  連判を思い立つのは悪人ぞ遂い出す外詮方もなし



そ:損になる事も少しはするがよし商売人の風はいやしし

  素読さへすれば稽古はすむことと言うは神世の学問ぞかし

つ:月に九度試業の数は決めねども何をするらん21日

  罪人の知れぬ罪とがする者はそば迷惑と云うべかりけれ



ね:懇に教導く友達は師匠と同じ恩と知るべし

  ねんごろに教え導く友達は師匠に勝る恩というべし

な:何事も云わぬばかりが善人か人の世話をもするが善人

  何事も云わぬばかりが賢人か人の世話をもするが賢人



ら:らちもなき話をするも気晴らしぞ人の妨げせぬ程にせよ

  来年もありと云うて怠れば思いがけなきさしつかへあり

む:難かしと思いしものもし慣るればいつの間にかは易くなるなり

う:上にたつ者がするとも先生に隠すことならせぬ方がよし

  生まれての年若くとも入学の日数積もりし者は老人



い:いつ見ても己が座席に居らざるは人の邪魔するくせ者と知る

の:飲み食いと女の話のみするは志しなき人と知るべし

  飲み食いと女の噂のみするは志しなき人と知るべし

お:親に孝兄に弟なる人ならば無用の銭を使う訳なし

  思うこと問うべき人に問いもせず暗夜過ぎる人の哀れさ



く:食い物をあきなう店の出来るのがこれぞイギリスフランスの舟

  口先で頼むと言うて心には頼まぬ人の世話はしにくし

や:宿元の手前は精を出す様で席の進まぬ者は偽物

ま:誠ある心ぞ道を学びなば貧しき病も何かさはらん



け:謙退似せぬ役目を辞退するはわが身勝手の者と知るべし

  今朝までも下座に居りし者共に教えらるるはさても気の毒

ふ:不快故下宿をする訳ならば快気の上は塾に入るべし

  不身持ちは己が命は惜しまねど老いたる親のありとしらずや

こ:心得になる事ならば見聞せよ読書ばかりが学問でなし



え:益友と云うべき者は外になし銭使わずに精を出す人

  益もなき話をするも気晴らしぞ人に妨げなき程にせよ

て:寺と医家加勢に行ってそのままに帰りこぬのが貧生の常

  丁寧に見ゆる者とて油断すな日頃の所作をつくづくと見よ

あ:悪事をば見ぬふりばかりして居るは在るに甲斐なき塾長という



さ:酒飲まず銭を使わず外にでず十に九つ悪人はなし

  酒二色二つの敵を防ぎ兼ね落城するぞ哀れなりけり

            き:きのうまで塾に通いし者共が逢うて見ぬ振りするぞかなしき

  規約をば守らぬ癖を直さずばたたりなきうち引き取るがよし



ゆ:悠々と人に後れて席に就く横着者のしるしなりけり

  ゆるゆると人に後れて席に着く謙退に似て実は横着

め:面倒な事を少しもこらえぬは才子なれ共頼もしげなし

み:皆人の手に汗握る事とては間違い多き講釈ぞかし

し:詩文章役に立たぬと云うものは道にそぐわぬ不才子と知れ

  上席の者がするとて先生に隠す事ならせぬ方がよし



え:得手不得手あるは其の身の恥ならば一事なりと取り留めよかし

ひ:病人というて来るにも虚実あり調べた後に帰省ありたし

  人知れず規約を犯すものとても報いの来ずと云う事はなし

も:物いりがするとて塾を出る人は実に窮屈嫌いとぞしる

せ:世話してもとかくしるしの見えぬのが素読の子供に外来の僧

  銭使い荒く飲食する人は長居の出来ぬ印なりけり

す:するどきも鈍きも共にすて難し錐と鎚とに使い分けなば

広瀬淡窓物語の表紙に戻る。

元に戻る。