昨今の秋風庵

98/09/01 10:44:32 広報ひた 咸宜園 −3 (9/1)

          □□□□□ 咸 宜 園 −3 □□□□□

                 昨今の秋風庵

 盛夏、青空に純白の雲を背景にしたみどりの樹々で、あれほどの合唱を奏でたセミた
ちも、どこかへ消え去り、咸宜園跡にも秋の気配を感じる季節となりました。
 訪問客が途絶えると、遠い昔ここに全国から若い人が集い、意気に燃えた日々、淡窓
先生の限りない情熱、その教育を中心としたドラマが展開されたこと、その裏返しとし
ての今の静けさ、想像を絶する歴史の舞台に心を奪われ、長い時の流れ、時代の流れの
中の刻一刻が意識されるのです。
 先月、ここを訪れた山口県の詩吟のグループが秋風庵で高吟された“休道の詩”の余
韻がまだ耳の奥に残っています。“君は川流を汲め、我は薪を拾わん”という句を、淡
窓先生がその人生を終えられた秋風庵の畳の上に座って、詩吟を耳にするときは、心が
静まります。グループの方に「やっと念願がかないました。長い間、詩吟をして、一度
ここで吟じたかった」と言われたときは思わず目に涙が浮かびました。
 この夏は例年になく猛暑が続き、汗だくの毎日でした。親子づれが多く、親がこの咸
宜園と淡窓先生の精神的なものを子に伝えようとされていたように思われます。
 その中に、8月上旬に3人の幼児を連れ熊本市から訪れたご夫妻がいらっしゃいまし
た。この方たちは“吉富復軒”という塾生のひ孫だそうで、このことを子どもたちに伝
えたくて来訪され、親として子どもたちに先祖のことを、幼き日から伝えようとしてい
ました。そして、ここにある入門簿等の資料に目を通され、また新たに感動を覚えたと
おっしゃられて帰られました。
 そのほか、秋風庵の塾生であった祖父のことを調べに東京から来られた方や広島から
親族6人を連れて来られた方などもいらっしゃいました。歴史の隔たりを感じない秋風
庵の昨今です。

                          文・咸宜園解説者 後藤 孝

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