闘病

カナダから帰ってそのまま、また息子の看病に千葉へ行ってました。
私は病院の敷地内にある付き添い家族のための宿泊所から
10日間ぐらい毎朝、病院の息子のところに通っていました。
時は春、しかもカナダでの楽しい思い出とのすごい落差。
そして、MY BIRTHDAY!
こんな不幸があるんだろうかと、宿舎に帰ってはジワーッと涙が出てました。

息子は神経内科病棟の3人部屋に入っていました。
同じ部屋には、同病の50代半ばの男性と海の見える窓側のベッドには
ねたきりの女の人がいるようでした。
私のほうからは、こんもり持ち上がったお布団しか見えず
看護婦さんたちが時々見にきてはお世話をしてました。

ベッドのそばに千羽鶴がかかっていて、ご家族のかたが治るように
願いを込めて折られたんだろうなーっておもって見てました。
次の日病院へ行くと窓側の患者さんの息が荒くほとんどうめき声に聞こえました。
この声を聞きながら寝ないといけない息子はかわいそうだって思ったんですが
それより何よりアノ苦しそうな様子に何とかして上げられないのかと
やきもきしていました。
次の日、病院へ行くとうめき声がしなくなってました。
たぶん気分が良くなられたんだろうって思ってましたが・・・

真中の男の人はSさんといって、奥さんが付き添っていました。
だんだんその奥さんと話をするようになっていってたのですが、
Sさんが、そーっと隣のベッドを見やりながら「ねー静かになったでしょう」
そういうんです。
「夕べ夜中に手術して気管に管入れたんですって・・・」そういって
痛ましそうな顔をしました。
その日の午前中、ご主人らしき人が看護婦さんとベッドの脇で話しておられるのが
聞こえました。
「これで、いびきが治まったです。ほかの方が寝られないんじゃないかと思って
心配してたんですが・・・」看護婦さんが「そんなー、ご本人は苦しいんですよ」
「奥さんに何か言ってあげて下さい」って。するとご主人は
「もう、わからないでしょう」そういって、5分ほどしたら帰ってしまわれました。

Sさんの話によると、窓側の人は50歳代の筋ジストロフィーの患者さんだそうです。
若い頃からちょっとおかしいとは思っていたらしいのですが、3人目の子供さんを
産んだ頃発病し、それからは入退院を繰り返しておられるとか。
今は、体が胎児みたいに小さく丸く固まってしまっています。
足を伸ばす事も、手を伸ばす事も、寝返りする事もできなくなって・・・
食事も直接胃の中に栄養物を送りこむのでしょう、点滴みたいな容器に入った
白い液体を看護婦さんが運んできてセットしています。
この方のところには、看護婦さん以外誰も尋ねてくる人はいません。
1日中、気管に入れられた管からもれる音と時々痰を吸う音なのかジュジューと言う
音しか聞こえてきません。

Sさんの奥さんは、一人で闘病してらっしゃるそのかたを見て
「子供さんも3人生んだんだそうだけど、ご病気も長くなってくるとね、
子供さんたちもお仕事してらっしゃるから・・・
ほんとお気の毒としか言いようがないわねーー」
そういって、そーっと窓側のベットを見ました。

窓の外は、青い太平洋が広がります。
わたしはソーっとたずねます。「アノー、意識とかあるんでしょうか?」
「さーー、どうでしょうねー?でも時々目を動かしてらっしゃいますよ」
「つい最近まではお食事も看護婦さんに食べさせてもらってたのにねー
治らないんですって、悪くなるだけなんですって。
それを考えたら、家やお宅なんか治るんだからまだ良いわよねー」そういって
2人で黙ってしまいます。あの方よりましだなんて、そんなあ・・惨くて言えません!

世の中にこんな残酷な事があって良いんだろうか、そう思いました。
私の不幸なんて吹っ飛んでしまった感じでした、自分の甘さに自己嫌悪!
もし、意識があるんだったらどんな気持ちでおられるのでしょう?
私は、気が狂ってしまうだろう・・・そう思いました。
殺してクレーって叫びだすだろう・・・そう思いました。
自分の不幸を嘆き、恨みながら・・死にたいって思うでしょう。
どういったら良いのか、言葉が見つかりません。

病院は戦場です。病気と戦ってる人、それを支える人、見ず知らず同士なのに
病気と言うキーワードで結びついて心を通い合わせています。
そんな中で、息子は、若い事もあってか随分と良くなってきました。
当初心配していた左半身の麻痺も、今のところ左手首から先だけ
麻痺が残っているぐらいで、大丈夫そうです。

息子の病状が安定したからと言う事で、病室が変わりました。
前いた部屋の前の廊下を通りかかるたびに、あの方のベッドの方を見て通ります。
いつもカーテンが閉まっていてあの折鶴だけしか見えませんでした。

神様、どうか少しだけでもあの方を楽にしてあげてください、
私には、そう祈るしかありません。

メルマガに寄せられたコメント

2001/04/19 16:29:09 なるなる さん 自分とか周りの人に、病気やけがで、くるしんでいる人を見ると、つらくなりますね。こんな時こそ一歩離れて、前向きに物事考えれたらいいですね。
このメルマガを発行した後ある方からメールが届きました。

その方は、知り合いを病気で亡くされた後だとかで、とても
共感していただきました。
病気はつらいものです。病院は病気と闘う戦場だと
思いました。

病院の近くの海
太平洋です!